森絵都さんの作品は『カラフル』しか読んだことが無かったので、児童文学のイメージが強い作家さんで大人になってからは避けていました。
一般文芸である本作「風に舞いあがるビニールシート」ですが、「カラフル」とは全く違う表情を持っていて、食わず嫌いはいかんなと反省させられました。
時間は有限!気になった作品は選り好みせず読んでいこう。
そういえば長嶋一茂が「オレはウツになって一回死んだと思ってる。だからこれからの人生何があっても平気。もう死んだんだから」って言ってて、「カラフル」に通ずる部分があるな~と思い出しました。
「カラフル」はそんなお話。
価格:583円 |
大切なモノ、ちゃんと抱きしめて生きてるか?
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。
自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い作品。
「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」「風に舞いあがるビニールシート」
本を開くと1作品目の『器を探して』が始まります。
もしこれが『鐘の音』スタートだったならば私はこの作品を全て読んでいないかもしれません。『鐘の音』ももちろん読み応えがあるのですが、独特な雰囲気を強く持っているので、私はあまり得意ではありませんでした。
そういう意味では短編小説は、作品の順番も本の印象を大きく左右するなあと。
「器を探して」
弥生という女性が「仕事」と「恋人」を天秤にかけて奔走するストーリー。
結婚か、仕事か。もし憧れの仕事に就いていたら私はどちらかを納得して選ぶ、いや違うな…諦めることができるだろうかと、自分に置き換えて読んでいました。
弥生が理知的な女性なのでイライラすることもなくスムーズに読める作品です。
「犬の散歩」
保護犬の里親探しボランティアをしている奥さんが病気の保護犬の餌代の為にスナックでアルバイトをするお話。
「犬のために水商売なんて…」って思う?
ペットは法律上は『モノ』でしかないけど、生きてて感情もあって生命なんだって改めて思わされます。
犬、それも飼い犬じゃなくて保護犬のために自分が周りにどう思われようが夜の仕事ができるか?って聞かれて即決できる人って少ないと思う。
犬・ネコのボランティア活動って「いざとなったら自分が責任を持つ」ぐらいの覚悟がないときっと人も動物も不幸になってしまうよね。「何かしてあげたい」って気持ちは素敵だけどね。
最後、あたたかい気持ちになれる結末なのも本当に良かったです。
「守護神」
私はコレが一番好き!
『守護神』の話の筋は祐介が自分の本心(やりたかったこと)に気付いていく、というもの。”大人が青春をやり直す”とか”損得勘定なしの本心”とか。こういうテーマに弱い人はきっと好きなお話。私は弱い(笑)
ニシナミユキと会うために祐介が集めたニシナミユキの情報(噂)も最後にきっちり伏線として回収されていったのもすごくスッキリです。
自分の信念はどこにあるんだろう?
本作「風に舞いあがるビニールシート」の主人公たちはみんな「大切な何か」を抱え、そのために「懸命に生きている」。
主人公たちの迷いが、葛藤が、そして決意が彼らの日常に描かれていて、自分の日常と比べずにはいられない。
本作の主人公たちのようにドラマチックじゃないし、ヒーローみたいではないけど、こうありたい!これが好きだ!って気持ちが私にもあったはず。
毎日の忙しさや世間体、平均から外れることに恐れて蓋をしてしまった気持ち。何があったって手放したくないこと。
これさえちゃんと持っていれば、幸せかどうかはわからないけど納得して生きていける気がする。