『思い出のとき修理します』という題名に惹かれてついつい手を伸ばしてしまいました。
「思い出のとき修理します」という一文を見て、頭に思い浮かぶような直してほしい過去があなたにはあるだろうか?
友達・恋人・親と上手くわかり合えなかったような切ない過去がある人は、読むとちょびっとだけ心が穏やかになれる、かもしれない。
意地にならないで客観的になれば過去の見え方が変わる
仕事にも恋にも疲れ、都会を離れた美容師の明里。
引っ越し先の、子供の頃に少しだけ過ごした思い出の商店街で奇妙なプレートを飾った店を見つける。
実は時計店だったそこを営む青年と知り合い、商店街で起こるちょっぴり不思議な事件に巻き込まれるうち、彼に惹かれてゆくが、明里は秘密を抱えていて……。
「黒い猫のパパ」「茜色のワンピース」「季節はずれの日傘」「光をなくした時計師」「虹色の忘れ物」
時計屋さんに飾られているプレート『思い出の時 修理します』。
実は「時計」の「計」が抜け落ちてしまっただけなのですが、このプレートの通り、明里と時計屋の秀司は「思い出の修理」に奔走することとなります。
『茜色のワンピース』
この本の題名に一番合致していたと感じたのは『茜色のワンピース』です。
老婆から「このワンピースを着て二人でデートしてくれない?」という不思議な依頼を明里と秀司は引き受けてデートをすることになります。
老婆が若かれし日にこの茜色のワンピースを着てデートをした通りに2人は再現をすることに。老婆にとってあの日のデートは苦い思い出として残っていた。
だけど年月を経て、2人のデートを見て、当時の自分たちを振り返ってみると
「会話が盛り上がらなかったのはつまらなかったからじゃない」「本当はこう思っていたのかも…」
悲しかったはずの思い出が、優しく切ない思い出へと変わっていったのです。
過去の出来事が変わったワケではないのに、思い出に対する感情が変化したのです。
この章から『思い出修理』のとらえ方が少し見えてくる。
『光をなくした時計師』
この章では思い出の修理は主人公たちの過去へと及んでいく。秀司が抱える過去や、明里が引っ越し先をここにした理由が明らかになる。二人の距離もグッと近付く。
ただ秀司の元カノと兄がなかなかのクズなので、ちょっとな…と思う部分もある。もっと別の話じゃダメだったんだろうかとモヤモヤ。
一方で明里の過去と傷が明らかになっていく過程の描写はとても好きだった。
子供の頃って記憶が曖昧だったり、そもそも物の見方が偏っていたりするものだと思うから、本人の思い出と記憶のつじつまが合わないのが当然だと思う。
様々なことが記憶のピースみたいになっていて、ゆっくりと少しずつ『思い出のズレ』が正されていくのが、すごくよかった。
悲しい思い出にも優しさが隠れているのかもしれない
他人の思い出を修理する際に、明里が幻覚を見たり、憑依されたり(?)な描写があるのが少し現実味に欠けるな思う部分はある。
だけど人物のやりとりや言い回しに優しい雰囲気が溢れていて、あたたかでノスタルジーな作品だと思う。
さびれた商店街という舞台設定が「思い出」というテーマにマッチしていてそれも良かった。
秀司のキャラクターも好みだったので(私の中では草食系イケメンで再生された)、穏やかな優しい物語を求めている人は満足できる作品なんじゃないだろうか。
『人は過去に戻ることが出来ない以上、過去の事柄を変えることは出来ない。ただ思い出は、そこにあった誤解、見付けられなかった優しさに気付くことで、悲しみの色が薄くなることもある。優しく、鮮やかな色を持つことだってあるかもしれない。』
そんなメッセージのつまった作品かと思います。
価格:648円 |