『三月は深き紅の淵を』恩田陸
はち(8)がめちゃくちゃ好きな作品の1つです。
でも「さっぱり意味が分かりません」みたいな意見も見るので、人を選ぶ作品なんかな?
私は読み終わった瞬間「うぉ~っ!おもろい!もう一回読もう!」ってなったんですけどね。
本好きなら第一章・第二章は共感間違いなしです。
というか、読書家さんとこういう会話してみたいです。
ではでは恩田陸『三月は深き紅の淵を』の感想です。
あらすじ
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。
彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上探しても見つからない稀覯本(きこうぼん)『三月は深き紅の淵を』の話。
たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
【ネタバレ有り】『三月は深き紅の淵を』感想
四つの独立した中編が、幻の本を軸にゆるく結び合わさっているといった構成になっています。
話が繋がっている訳ではないのに、第二章以降に第一章で得た情報が所々で生かされてくるので、何とも不思議な感覚がしました。
『三月は深き紅の淵を』を読書家にオススメしたい理由は、本作の一章・二章が読書家たちによる”幻の本”に関する推理によって成っているからなんです。
その推理がミステリー仕立てになっているいて、1つの小説として満足感・達成感もバッチリだし、
推理を聞いていて「そうそう、そういうトコ有るよね」って本に関して共感できるポイントがたくさん出てくるんです。
ココが読書好きにはとても楽しいと思う。
読書家が「本」を語るシーンに共感しまくり
本作のメインアイテムである稀覯本(きこうぼん)『三月は深き紅の淵を』。
この本が幻となったのには、この本にいくつかルールがあったからだ。
作者不明のこの本はもともと極端に発行部数が少なかった。それに加えて、発行してスグに本の回収が行われた。
さらには以下のようなルールがこの本にはあった。
- 人に譲渡してはいけない
- コピーしてはいけない
- 人に貸す際はひとりだけ、されに一晩のみ
世に広まる事のない幻の本。
しかし、読んだことのある人は皆「中毒性がある本だ」とこの本を評価するのだ。
「ぜひとも読んでみたい…」そう思うビブリオマニアは大勢存在するーーー。
第一章『待っている人々』
主人公である鮫島巧一はこの幻の本『三月は深き紅の淵を』を探して欲しいと会長の別宅に招かれる。
会長によると「本はこの別宅に隠してある」という会長の友人の遺言のもともう何年も探し続けているらしい。
巧一が招かれた屋敷には他にも訪問者がいて、どうやら彼らは一部(あるいは全部)本を読んだことがあるようだ。
『続きを読みたい』『もう一度読みたい』読書家達が口をそろえて言う本とはいったい…。
本を読んだことがない鮫島は彼らに本の内容を尋ねる。
「私は〇章が好きだわ」
「僕は第一章が好きだったな」
「あのシーンのあの場面、あれは若い子の感性じゃない?」
「いやいや、意外と有名作家の匿名小説かもよ」
何となくの本の内容の、作者の顔が見えてこないということが伝わってくる。
読者は鮫島とともに「実際に読んでみたい」という欲を深めることになるのである。
鮫島はできる男なので、ちゃんと指名も果たそうとします。(笑)
本の内容に夢中になりすぎて私は忘れちゃってたけど、鮫島がココに呼ばれた理由は本探しなのです。
「故人も本を読んだはずだから、本の隠し場所は本の内容に関係があるのではないか?」
と彼らが話してくれた本の内容から、なんとかヒントを見つけ出そうとする彼の推理もとても読みごたえがある。
おそらく第三章は幻の本『三月は深き紅の淵を』の1部なんだと思う。
ビブリオマニアたちの語っていた本の内容に近いと私は思ったよ~。
第二章『出雲夜想曲』
第二章は二人の女性出版社が幻の本『三月は深き紅の淵を』の作者に迫ろうとする話である。
幻の本『三月は深き紅の淵を』の作者を求めて、二人の女性編集者は出雲におもむく…。
その寝台列車内で繰り広げられる2人の推理合戦が本章の読みどころである。
「作者は男性だろうか?女性だろうか?」
「一人で書いたのか?合作なのか?」
「若いのか?年配なのか?」
この推理合戦がとても面白い。
何を持ってそう思うのか、読書好きにはたまらなく惹きこまれるやり取りが盛りだくさんなのである。
確かに女性っぽい文章、男性っぽい文章ってあるよね。無意識の文章のクセとか。
私ずっと作家の『有川造』って字面で男性だと思ってて、「女性っぽい小説を書く人だな~」なんて思ってたワケです。
で、調べたら、実際女性だったんですけど…。
とまあ、こんな感じのことをもっと理論的に言い合ってるんです。
ハリー・ポッターの作者のJ・kローリングが名を伏せて応募した作品が、すぐに本人のものだとバレてしまったってニュース知ってます?
やっぱ文章にも人柄が出るんやな~なんて思った記憶があります。
これって文章のクセってやつなんじゃないかな~。
私、この章で恩田陸さんって実は1人じゃなくて複数人の合同ペンネームなんじゃ…って感じちゃって。
「あるモノに関するイメージが一貫されすぎている。だから作者は1人だと思う。」
普通こんなこと思いつきます?
例えば『ドラえもん』をイメージしてください。
「猫型ロボット」
「四次元ポケット」
「青タヌキ」
「独特な声」
人によって持つイメージって実は様々。
でも『三月は深き紅の淵を』では全章通じてイメージが一貫されている。(ドラえもんじゃないけどね)
だから作者は一人なんじゃない?って。
すごい推理力やな…!
コナン君もビックリやで(笑)
男性作者・女性作者・若い・ベテラン
普段感覚で自然に受け入れていることを、推理に使えるくらい理論的な文章にできるなんて「すごい」の一言。
私は「~って感じ。」って曖昧な文章しか書けないから、文字書きさんの文章力ってすさまじいな…。
「こんなところが女っぽい、若い」
「こういうところが一人で書いてる気がする」
って理論的に説明してくれてて
ほんと「そう、そうなんだよ!」って感じ。(←あ。さっそくww)
本好きな登場人物たちが本についてあれこれ述べるシーンは
読書家だったら絶対楽しいと思いますよ。
あとね、作者も明らかになるんだけど、もうゾクゾクゾクーって!
まとめ
以上、恩田陸『三月は深き紅の淵を』の感想でした。
周りに本を読んでいる人いないんで、こういう会話に憧れが止まらんのですよ。
読書バーとか行ったことないんですけど、あれってどんな会話してるんですかね?
「私これ読んでます!」みたいな…?
小説からの映画化って多いから、
「〇〇の小説を読んだことある人、DVD見ませんか?」
みたいなサークルがあったら行きたいな~。
そんで、小説と映画の違いを語り合うの。楽しそう。
あ、でも、自分が読んでる本を知られるのちょっと恥ずかしいな~。