8(はち)に関しては珍しく恋愛小説でーす。
あんまり恋愛小説って好きじゃないんですけど…だってなんか文字がいちゃいちゃしてる…?私だけかな、読んでいると照れてきちゃうの。
実は『クジラの彼』が恋愛小説だと思わなくて…表紙に目を惹かれて手に取っちゃいました。
でも、少女マンガみたいできゅんきゅんした~~!!(単純)
たまには恋愛小説に手を出すのもアリですな。(笑)
あらすじ
『元気ですか?浮上したら漁火がきれいだったので送ります』彼からの2か月ぶりのメールはそれだけだった。
聡子が出会った冬原は潜水艦(クジラ)乗り。
いつ出かけてしまうか、いつ帰ってくるのかわからない。そんなクジラの彼とのレンアイには、いつも7つの海が横たわる…。
男前でかわいい彼女たちの6つの恋。
『クジラの彼』『ロールアウト』『国防レンアイ』『有能な彼女』『脱柵エレジー』『ファイターパイロットの君』
全6篇です。
普通に生活していたら知ることのできない、恋愛ルールも知れちゃいます。
自衛隊員との恋愛って大変だぁ…!
【ネタバレ有り】『クジラの彼』感想
『クジラの彼』は6作の短編小説集で、自衛隊員同士の、あるいは自衛隊員との恋愛模様が描かれています。
自衛隊員の環境を再現しているかは定かではないけど、自衛隊員の生活は知らないことばかりで、とても興味深かったです。
★『クジラの彼』
「クジラの彼」は潜水艦乗りの彼と、彼を待ち続ける彼女のお話。
”潜水艦乗り”の仕事環境って知っていますか?
私は知らなかったんですけど、本書によると
- 一度潜ってしまうと電波が届かないため連絡が取れない
- また潜水日程を教えてもらうことが出来ずいつ帰ってくるかわからない。
これ結構、恋人としてしんどくない…?
彼を待つ彼女の寂しさが手に取るようにわかる。ただ”待つ”しか出来ないのはなかなかと忍耐力のいることだ。
そして何より彼女を辛い思いにさせるのが彼の恋愛のスタンス。
彼はこんな仕事だから、恋愛に全く時間が作れない時が必ずある。だから彼は2人の関係を終わらせる権限を彼女にゆだねているのだ。
しかし、彼女はそのことがより不安になる。「あなたは私が待っていなくても平気なの?」と。
ほんとそう!
恋愛に時間が作れないって言うなら、限られた時間でこれでもかー!ってぐらい愛情を伝えてくれないと不安になっちゃうよ。仕事以外は全部おまえにくれてやる…!ぐらい言ってくれ。
その後の2人は素直な気持ちをぶつけ合って、照れ合って終了。きゅんとした。
『脱柵エレジー』
「脱柵エレジー」の主人公、清田は自身が新人の頃に色恋沙汰で煩悶した挙句に脱柵を体験したことがある。
ちなみに”脱柵”とは自衛隊駐屯地や基地から隊員が脱走することを指す隊内用語だという。
恋人が一般人で自身が自衛隊員である場合、会えない時間の多さや価値観のずれで上手くいかないことが多いそうだ。
若かれし頃の清田は、隊の規則を破り脱柵し、彼女に会いに行った。いや、彼女のために脱柵した。だが待ち合わせ場所に彼女は現れなかった。
当時の若かれし頃の清田が会いに来なかった彼女に対して内心毒づくのも理解できるし、同時に切ない。
「仕事と私(僕)どっちが大事なの?」と相手に求めがちな人は絶対読むべき。
「本当に相手が大事だったらそんなこと言わない」という清田の主張は最もだ。
相手の仕事を理解してあげたいって思えないってことは、自分本位な恋愛なのかもしれないね。恋は1人でも出来るけど、恋愛は1人じゃできないもの。
★『ロールアウト』のこのセリフは大切にしたい
『前日にどんなに喧嘩しても、翌日は笑顔で送り出してくれ。その日の晩に二度と帰ってこないかもしれないのが自衛官だから』(p.269「ファイターパイロットの君」)
なんて切ないセリフなんだろう。
自衛官じゃなくても、不慮の事故って誰にでも起こる可能性があるから
この教訓は大切にしたいな~。
まとめ
実は有川造さんのことをずっと男性だと思っていたんですが、女性作家さんだったんですね。
この『クジラの彼』は揺れ動く感情の描写がたくさん出てくるのですが、すごく繊細で分かりやすくて、女性っぽい描き方だなあと思っていたんです。女性と知って納得。
『クジラの彼』は仕事を持っている男女が自分たちの置かれている環境の中で上手くやりくりしながらお互いの距離をつめていく。
それはいたって普通の恋愛の過程なんですが、自衛隊員という特殊な環境設定によって、普通であれば蔑ろにしてしまうけれど本当は大事にしなくちゃいけないことが浮き彫りになっています。
あらためて、相手と向き合うことの大切さだったり、相手の気持ちをくみ取る努力の大切さに気付かせてくれる作品です。