【革命前夜】歴史の教科書で見た単語が初めてリアルになった

 

【革命前夜】(著:須賀しのぶ)を読了。

 

2022年に入って20冊弱ほど小説を読んできたけれども、今のところ今年1番に面白い本だと感じた。重厚な小説。こういう本にもっと出会いたい。

 

昭和から平成に変わるタイミングで東ドイツに音楽留学した日本人男性が主人公。

当時、東ドイツと西ドイツでは貧富の差が激しく、西へ亡命しないように互いに監視し合っている、そんな日常が東ドイツでは当たり前だった。音楽の力で西に行きたがっている同輩。人生をかけて留学に来ている外国人。色んなことが渦巻く、革命前夜。

 

歴史・青春・音楽、どれもが置き去りになることなく物語の中に描かれていて、満足感がすごい。誰が敵(密告者)で誰が味方か、というサスペンス要素もあり全く飽きなかった。

 

音楽、東ドイツでの生活、同輩が外国人、ということでカタカナが多く、読み始めは何が何だか、誰が誰だか、「ウッ」となってしまうが、読み進めるにつれてキャラも立ってきて、そんなことは気にならなくなっていった。

 

こういった読書感想文サイトに訪れるのは既にその作品を読んだ人がほとんどだと思うが、もし今から読もうという人がいるのならば、最初の段階で読むのを諦めずにもう少し読み進めて欲しい、と思う。物語は尻上がりに面白くなっていく。

 

学生だった頃「日本人だから英語が出来ない」と面白半分に開き直る友人の言葉に「私も現代人だから歴史は分からないや」なんて思うくらい勉学としての歴史は好きじゃなかったのだけど、それが悔やまれる。知識があれば、きっともっと多くのことを感じ、得られる作品だったのではないかと思う。

 

解説で朝井リョウさんがこんな風に綴っていた。

須賀さんの”書く”を徹底する姿勢に胸打たれた。須賀さんは、書くと決めたことに関して、考え切り、思考し尽くすことに決して妥協しない。重要な登場人物ではないにしても、そのキャラクターの背景を、心情を、行動原理を細やかに把握しているのだ。(P467)

 

『1989年:ベルリンの壁崩壊』、私にとってこの歴史的な日は試験に出てくる単語でしかなかった。だけど須賀しのぶさんの妥協のない書く姿勢で出来上がったこの作品のおかげで、初めてその時そこで生きていた人々の存在が認識できた気がする。ベルリンの壁崩壊は単語ではなく湿度や温度を持つリアルな出来事なのだ。

 

そしてこれ以上にないくらい美しい結末。最後の1ページに辿り着くために、もう1度読みたくなる作品だった。

 

革命前夜 (文春文庫) [ 須賀 しのぶ ]

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