『リップヴァンウィンクルの花嫁』何か分からないが好き

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リップヴァンウィンクルの花嫁】(著:岩井俊二)を読了。

岩井俊二さんの作品を読むのは多分初めてなんですけど…好きかもしれない。

心理描写は心の柔らかいところを抉るようにリアルなのに、作中で起きる出来事はフィクションでしか起こり得ないだろうなという突飛なことで。そのバランス、いやアンバランスさ?がとてもクセになる。

 

式場に持ち込めるものは実はものすごく限られている。

理想的な家庭。理想的な家族。

それに該当しないものはご遠慮ください。(P85)

 

これは主人公の七海が結婚が決まって、離婚をした両親に離婚していないフリを頼み、足りない参列者はサクラを雇い、式場に提出する家族とのエピソードを嘘で塗り固める、そんな時の七海の本音。

 

幸せになりたいと思っているのに、幸せな場所の居心地が悪いというか。そんな時に浮かんでくる諦めみたいな気持ちだったり、やるせなさはちょっと分かるなあと思った。

 

結局そうして手に入れた幸せ(結婚)は浮気の濡れ衣を着せられて終了。その後は自分もサクラになったり、縁もゆかりもない場所でアルバイトをしたり、そうこうしているうちに月に百万円稼げるというメイドの仕事を引き受けることになる。そこには真白というサクラのバイトで出会った女性がいて…。

 

ネタバレなのであまり詳しくは語りませんが、七海と真白の関係が羨ましいです。互いが互いを癒し合っているような。

彼女たちが経験したあの満たされた1日がとても羨ましい。あれさえあれば強く生きていける気がする。いや、明日死んだって後悔がないような気すらする。

 

この小説の前半はSNSがキーになっていて、七海は夫に言えない本音をSNSに書き込んだりするんですね。それで問題も起きちゃったりするんですけど。

だけど真白と生活をするようになって、SNSを開かなくなる。そうして時間が経ち、物語の結末で「そういえば以前書き込んだメッセージはどうなっているんだろう」と思い出すシーンがあるんですが、何かこう良いなあって思いましたね。救われたんだねって。

飾らず本音で触れ合える人や場所があれば、SNSなんて必要ないのかもしれないな、なんてことも感じました。

 

物語はハッピーエンドなのですが、読み終わった今、ちょっと寂しい。

 

リップヴァンウィンクルの花嫁 (文春文庫) [ 岩井 俊二 ]

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