【神様の裏の顔】色んな意味で「え?」って読後感

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【神様の裏の顔】を読み終えてから少し調べてみてビックリ。著者は何と元・お笑い芸人という経歴の持ち主だった。

 

そう言われてみると、登場人物たちの認識が噛み合っていないのに妙に会話が噛み合って違和感なく進んでしまうシーンなんかは確かにコントにありそうだなと思った。

 

神様のような清廉潔白な元教師・坪井誠造が死去し通夜が行われるシーンから物語はスタートする。

葬式に来た弔問客が彼との思い出を振り返り語り合ううちに坪井氏は凶悪な犯罪者だったのではないか…?という疑惑が沸き起こってくる。あんな神様のような人がまさかそんなことをするわけが…。

 

各々がひとりで「あれって坪井氏の仕業だったのかな?」とうっすら疑惑を抱いた時には「いやいや、あんな良い人がそんなことをするはずないだろう」と考え直し、疑った自分を責める。

 

なのに、人数が集まって「実はボクあれ先生のせいかもって思ったことがあって…」「私もこんなことが起こる前に先生に相談していて…」といくつも疑惑(not確信)が出てくると『やっぱり先生の仕業に違いない!』と誘導されてしまう集団心理の怖さよ…。

 

タイトルが【神様の裏の顔】なので「まさが坪井氏の本性は悪魔だったの?」と思うのだけど、この本はここからが面白い。

 

神様のような男・坪井誠造に疑念を抱いた人物が4人(A,B,C,D)と居るのだけど、語り合ってすぐの時には「坪井氏は悪魔だったんだ!」となったのに、さらに深く深く疑念について語るうちにAの疑念はBが、Bの疑念はCが、Cの疑念はDが…と何と各々で坪井氏の疑念を晴らして、再び坪井氏の身の潔白が証明されていくのである。

 

「坪井誠造はやっぱり神様でした~」ちゃんちゃん!

…で終わらず、実はその先にもう1つミステリーが残されていたのがこの本の売りポイントであろう。起承転結・結!って感じ。ヒヤッと始まる最終パートには「お?」と思わされた。

 

ただ、その【結】の中身がとてつもなく惜しい。

ここまでが割とリアリティのある語り合いだったから、急にフィクションになってしまったというか、もっと別のオチの作り方もあったんじゃないかと思ったりする。モノローグの良い雰囲気で進んできた物語が急に解説っぽくなってしまったのも残念だった。

 

ドラマとかでも中盤めちゃくちゃ盛り上がるのに、着地点が見付からなかったのか最終話でグダグダして評判がガタ落ちする作品がいくつもあるぐらいだから、物語って始めるよりも終わらす方が圧倒的に難しいんだろうなと思う。

 

何かこう「起承転結の後にもう1ビックリ!」って狙いは読み取れるんだけど、まとめ方に苦労した感じがヒシヒシ伝わってくるラストだった。勿体ないなあ…疑惑が晴れていくシーンなんてめちゃくちゃ爽快で読み応えがあったのに。

 

読みながら「他の作品も読んでみたいな」「多才だな」と思うぐらいには中盤は思わず読まされてしまう文章だった。【神様の裏の顔】はデビュー作らしいので、成長に期待して別作品も手に取ってみたい。

 

神様の裏の顔 (角川文庫) [ 藤崎 翔 ]

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