【十二人の手紙】(著:井上ひさし)を読了。
この作品は手紙だけでストーリーが進んでいく書簡体小説というもので、他人様の手紙を覗き見しているような背徳感が味わえる。ひと様の手紙を読めるだけでも楽しいというのに、これがきちんとミステリーを成しているのだから面白くないわけがない。
単刀直入に言う。めちゃくちゃ私好みの作品だった。
携帯を持っていながら、遠くへ越していった友人と何故か手紙のやり取りをすることになった過去がある。今考えても不思議な提案をされたなあと思う。
手紙ってメールみたいに即レスじゃなくて、自分が出してから1週間返事が届かないとか普通だから、時間が空いてもそれまでの内容が伝わるように書き合うものだったりする。
手紙というものは人に書くものだから当然自分が書いた手紙は手元に残っていないのだけど、相手から私に宛てた手紙を読むと「あぁ、自分はこんなことを手紙に書いたのだろうな」と案外透けて見えてきたりする。
手紙を使ったありがちなトリックと言うと、手紙のやり取りをしている相手が嘘をついている・誰かに成りきっている、というもの。
ただこの手法はミステリーに通ずる人には目新しさがないと思うので、私が「これぞ手紙ならでは!」と思った【鍵】という章の感想を綴っておく。
旦那(絵描き)が不在のとある家で聾唖(ろうあ)者が殺され、絵画を盗まれるという事件が起きる。
妻が旦那に事件の詳細を説明しながら「絵の制作が大変なのも分かりますが早く帰ってきてください」という旨の手紙を出す。
しかしながら返事も返ってこなければ、旦那も帰ってこない。
しびれを切らした妻が「なんて冷たい人なんでしょう」と綴った手紙にやっと返信が。
「『架ける』は『掛ける』。『名札が着いている』は『名札が付いている』。耳の聞こえない者は形で漢字を認識しているため<同音異字>は存在しないのだよ。お前が犯人なのではないか?」
読んだ時に「うわ、本当だ」とすごく素直な反応をしてしまった。
こんな風にビリッとした驚きがあるお話が13話。よく出来ている、と言うとどこか上からな感想になってしまうけれど、本当にどれもこれもがよく出来ていて面白かった。
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