【永い言い訳】1番近い人に、1番誠実であれ。

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永い言い訳』(著:西川美和)を読了。

 

文庫本の上に「映画化しますよー」ってカバーが付いてあって、そこに書かれている『妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった。そこから愛しはじめた。』というキャッチコピーに魅かれて手に取る。

 

すごく好きな作風だったので、この本を読み終えた後、同作者の作品をさっそく買いに走ってしまった。いずれ、その作品の感想も残せたら。でもまずは『永い言い訳』の感想を綴っておこう。

 

主人公は人気作家をしている衣笠幸夫。

妻とその友人が乗った旅行バスが事故を起こし、警察から電話がかかってきた時、彼は別の女性とベッドにいた。

著名人なので事故に関する突撃インタビューに答えている時、とある男(陽一)に声をかけられる。男は幸夫の妻と旅行に行っていた友人の旦那で、まだ手のかかる年頃の子どもが2人いた。

トラックドライバーで家を空けることが多い陽一に代わって、子どもたちの世話を申し出たことで、幸夫は見落としていた優しさや愛情のカケラを見付けていく。

 

妻以外の人と関係を持っていることからも冷めた夫婦関係であることが垣間見えるけれども、妻の所持品を引き取りにいったシーンでもそれが漏れ伝わってくる。

おそらくこちらが女性の方の物だと思われるのですが、といくつかのスーツケースの前に立たされたが、中身の一つ一つを手にとって見ても、混乱が増すばかりであった。二十年近く切れ目なく共に暮らしてきたというのに、洋服も、化粧品も、夏子の肉体を伴わずに物だけでそこに並べられてしまうと、セーター一枚、口紅一本、これは妻のものです、と確信して言い切ることが出来ない。(P70)

 

アンフェアの昔の映画で、雪平夏見があまりに忙しい朝で登校前の子どもを蔑ろにして、その日に子どもが事件に巻き込まれてしまう。その時に雪平が「あの子がどんな服を着ていたか全く覚えていないの…」って嘆くシーンがあるのだけど、それを思い出した。

 

結局のところ人生で1番大事なことってコレな気がする。

時間には限りがあるということ、人は後悔をする生き物だということを、頭の芯から理解しているはずなのに、最も身近な人間に、誠意を欠いてしまうのは、どういうわけなのだろう。

愛するべき日々に愛することを怠ったことの、代償は小さくはない。(P329)

 

家族だから、仲が良いから、とちょっと雑に接してしまったり、なあなあな態度を取ってしまったり。それを『信頼しているからだ』『そういうことが許される関係だからだ』なんて言う人もいるけれど、本当は誰よりも傍にいてくれる人にこそ、誰よりも優先して真っすぐに誠実であるべきなのだと思った。

 

外では忠犬ハチ公みたいなのに、家で横暴な人ってどっちが大事な人たちなんだよって思っちゃうね。

 

妻が死んでも泣けなかった幸夫。妻だけじゃない、誰に対しても愛情や関心なんてなくて、妻が死んですぐは自分も死んでも良いかなあなんて思っていた。妻に会いたいからじゃない。もう良いかなって思ったからだ。

 

そんな気持ちも陽一たち家族との付き合いで変化していく。

 

こっちの人らに何一つ迷惑をかけずに死ぬのはなかなか難しい。死ぬって、迷惑がかかるんだ。物理的にもそうだけど、人の気持ちに、迷惑がかかる。

(中略)

俺みたなやつがくじけることで、真ちゃんやアーちゃんを、この上一瞬でもそんな気持ちにさせるのはいやだと思った。あの子たちはもう十分に失い、そして闘っている。俺の死を完全に無視するには、彼らとは、すでに関係を持ち過ぎた。(P330)

 

「陽一家も死んでしまった君も、俺にとって、人生にくじけてしまいそうなときの踏ん張る理由な気がするよ」って意味の文章が悲しさも含まれていてすごく素敵な文章だと思った。

 

西川美和さんのインタビューやエッセイを探ってみたのだけど、「結婚は厄介な部分がつきまとうけれど、自己完結できない人生も面白かったんじゃないか」という文章があって、結婚願望のない私には妙に響く。

記事https://gendai.ismedia.jp/articles/-/61763

 

幸夫のひねくれた考え方や生き方が、あまりにも私にソックリなので、幸夫の心が満たれていく様子は私もこうなれる未来があるのかもしれない、という希望を得た。幸夫の気持ちが分かりすぎるほど分かるだけに、最後はグッとくる。

 

日本人口1億3000万人、全員に好かれたり誠実であるなんて不可能だ。せめて1番近い人、1番大事にしたい人には誠実でいよう。幸夫はきっと妻が死ぬ前に気が付きたかっただろうと思う。

 

映像化した作品もぜひ見てみたいと思った。モックンも竹原ピストルもピッタリだ。

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