『ジャイロスコープ』にて伊坂幸太郎七変化を体感せよ。7編からなる伊坂初の文庫オリジナル短編集

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ジャイロスコープ伊坂幸太郎を読みました。

 

何でも、デビュー15周年の2015年に発売された伊坂幸太郎初の文庫オリジナル短編集だそうです。

 

今、2017年なので伊坂幸太郎さんは17年選手なのですが、

個人的にはまだ17年なんだ!?って感じです。

 

作品数も多いし、ファンも多い…。めっちゃベテラン感あるんですけど(笑)

そんな伊坂幸太郎が綴る短編小説の感想いっきまーす。

 

 

ジャイロスコープ』あらすじ

助言ありマス。スーパーの駐車場にて”相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。

 

バスジャック事件の”もし、あの時……”を描く「if」。

謎の生物が暴れる野心作「ギア」。

洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。

 

『浜田少年ホントスカ』『ギア』『二月下旬から三月上旬』『if』『一人では無理がある』『彗星さんたち』『後ろの声がうるさい』

全7編の短編集です。

 

【ネタバレ有り】『ジャイロスコープ』感想

短編が7編もあるので、3編だけ感想を書こうと思います。

私のチョイスは『if』『一人では無理がある』『彗星さんたち』です。

 

★『if』

映像では作れない、文字だからこそ成り立つ小説ですね。

 

いつも通りに出勤。いつもと同じバス。

バスジャックに巻き込まれてしまった。

「男は降りろ」そんな犯人の要求に何も抵抗できずに、バスを降りてしまった。

そして走り去っていくバス・・・。

 

ページを読み進めると…。

いつも通りに出勤。いつもと同じバス。

バスジャックに巻き込まれてしまった。

「男は降りろ」そんな犯人の要求に、

乗客の男たちはバスを降り・・・ない!

 

「この時を俺たちは待っていたんだ…」って言って犯人を男性たちで取り押さえるのです。

 

バスジャックが起きるまでの一連の流れにあまり変化がなく、しかも『if』というタイトルなので「あの時こうしてれば…」ってパラレルワールドを描いた作品なのかな?って思うじゃないですか。

 

実はパラレルワールドでもなんでもないんです。

 

一度目に犯人の要求に従ってしまった男性客たちはすごい後悔していたんです。

通勤に使うバスだから顔ぶれも変わりません。事件解決後の毎朝、女性たちから発せられる軽蔑の眼差し。肩身の狭い思いをしていたのです。

 

だから男性陣は「『もし』次こうなったら逃げないぞ!」って思って毎日を過ごしていたんです。

 

で幸運にも(?)またバスジャックに巻き込まれて、あの日をやり直すかのように犯人に立ち向かうっていうお話です。

 

上手いな~って思ったのが、バスジャックの時間帯を通勤時間にしてあるところ。

あれ、不思議ですよね。バス待ちの並ぶ順番とか、決められてるの?ってくらい変わらないもんね。たまに違う人が紛れてると「…あ!」って思ったりする(笑)

 

だから初バスジャックの朝と二度目の朝の描写に違いが少なくて、時が経ってるって思わないんです。騙された~~!

 

★『一人では無理がある』

こちらは『if』とは逆に映像化して欲しい作品です。

 

サンタクロースという職業が存在しているという話で、おそらく多くの人がどこかで触れたことがある設定。

 

ただこのサンタクロース社、誰にでもプレゼントを贈るのではなく、虐待や孤児といったプレゼントをもらえる環境にいない子供にのみ働きかけるのだ。

 

サンタクロース社の社員の松田は少しおっちょこちょい。

「プレゼントは鉄板(のもの)だろ」と言われて、子どもに”鉄の板”まさしく鉄板を贈ってしまった過去を持つ。

 

しかし、彼のそんなミスは何故だか、贈られた子どもにとってプラスに働くのだ。

 

ハートフルでくすっと笑えるので、映像化して欲しいなあと思う。

物語の始まりが、サンタクロースと全く関係ないことから始まるのも、すごく惹きこまれた。鉄板も大活躍だったぞ!

 

サンタクロース会社を題材にした作品はいくつかあるけれど、私は伊坂幸太郎の描いたものがファンタジー要素とリアリティー要素が混在していて一番好きかもしれない。

 

★『彗星さんたち』

他に好みだったのは『彗星さんたち』かな。

新幹線の清掃員さんたちを題材にした物語です。ちょっと前にテレビや雑誌なんかで特集組まれていたこともありましたよね。「スピード清掃」とかで。

 

一斉にダーっと椅子の向きを整えたり、頭のところの布(?)を取り替えたり、すごいスピーディーだった記憶があります。

それと同時に整っているものって誰かがやってくれているんだよな、とごく当たり前のことを再認識した記憶も。

 

この短編で心に響いたセリフがあって

「もっと大変な人がいるから、なんて思ったらダメだよ。そんなこと言ったら、どんな人だって『海外で飢餓で苦しむ人に比べたら、まだまだ』なんてなっちゃうんだから」

 

「でも、あれね、気をつけなくちゃいけないのは、『わたしが一番大変』って思っちゃうことね。『わたしだけが大変』とか」 

(「彗星さんたち」P.209)

 

じゃあ傲慢でもなく、卑下でもないレベルはどこなんだ!?

っていうのは、 文中ではさくっと「千番目くらいに大変で(って思っておけば)いいんじゃない?」とありました。

 

「私だってしんどいんじゃー!」

「私もシンドイけど、もっと大変な人がいるもんね…」

の気持ちのさじ加減って難しいなーと思ってたんですよね。

 

うん。これからは「千番目くらいに大変です」って思うことにする(笑)

 

『本を読むと人生が豊かになる』ってよく聞くけど、「文庫本でも意味あるのか?」ってずっと思っていたんです。

でもこういう不意に心に触れる言葉の存在とかを考えると、意味があるのかもしれないですね。

『彗星さんたち』には素敵な考えがふんだんに盛り込まれていました。